心理ネットワークと能動的推論モデルによるシミュレーションから
2025-12-06
※数式などの補足資料が含まれている本スライドのリンクです
感情粒度について
ネットワークによる感情粒度の定量化
感情粒度と適応行動の計算論モデル
例)楽しみにしていた親友とのランチの予定を当日の朝にドタキャンされた
神経症傾向(Erbas et al. 2014)
自己調整能力の高さ(Kalokerinos et al. 2019)
アルコール摂取量の低さ(Kashdan et al. 2010)
過食衝動の低さ(Dixon-Gordon et al. 2014)
身体的な攻撃性の低さ(Pond et al. 2012)
薬物依存の再発の低さ(Anand et al. 2017)
Hoemann et al. (2020) では従来のICCによる定量化の限界点が指摘されている。
単一推定値であるため全体的に高いか低いかの情報しか得られない
個人内変動を含め,時点をまたいだ感情間の関係性がわからない
特定の感情間の関係などの異なる次元の情報が失われている
→臨床的に関心があるのは単一推定値ではなく個人特有の差?
(Rowland and Wenzel 2020)の感情のESMデータを二次解析
従来指標とネットワーク構造を個人レベルと集団レベルで比較
学部生125名,0~100のVASによる測定
1日6回,40日間のESM
2名のネットワーク構造を比較
EGが高い個人が低い個人よりも疎なネットワーク
全参加者のネットワーク密度と従来指標の関係性の相関分析
EGが高いほど密度は低下する傾向がある
感情粒度の高さは感情を制御するための方略の レパートリーが多い(Barrett et al. 2001)
状況に応じて多様な戦略を用いて行動する能力が高く,「制御の柔軟性が高い」可能性
外部状況に合わせて適切に信念を更新し,行動に移す?
→感情粒度が柔軟性に影響する計算論モデルを使って考える
探索的な検討や経験知をデータと照合するネットワークアプローチの強みと,数理モデルのシミュレーションは相性がよさそう
様々な可能性について考察するための参考になる
統計的制約が多いことによるリアルデータの適用の難しさ
シミュレーションの際の駆動原理の不在
→計算論モデルと組み合わせてパラメータの構造や動的な関係を扱うシミュレーションアプローチ
エージェントは内部の生成モデル(信念)と観測を用いて世界の状態を推論する
期待自由エネルギーGは,実利的価値(利用)と認識的価値(探索)という2つの相反する動機を統合した目的関数
エージェントは期待自由エネルギーを最小化する行動を選択することで,不確実性を減らしながら目標(選好)を達成する
モデルの詳細は補足資料
Ising modelとノードワイズのロジスティック回帰は数理的に等価(Waldorp, Marsman, and Maris 2018)
上位層の感情時系列データに疑似的なIsingVARを適用し,ネットワーク構造を推定
1-密度でγを計算し,下位層にフィードバック
モデルの詳細は補足資料
固定\(\gamma\)モデル→感情粒度パラメータ\(\gamma\)が固定値(0.1, 0.5, 0.9, 1.0)
変動\(\gamma\)モデル→上位層の感情ネットワークの変動に伴って\(\gamma\)が時間変動(50試行,100試行,200試行)
低不確実性→\(P(0.9, 0.1)\)
高不確実性→\(P(0.6, 0.4)\)
不安定→100試行ごとに反転
安定→250試行ごとに反転
ルール反転後も信念が更新されにくい
正規化による信念更新の抵抗
環境の情報の軽視/環境変動に対する柔軟性の低さ
通常のベイズ更新によって最初の文脈で正解に素早くたどり着く
信念が正解に強固に張り付くと切り替えられない(尤度のせいもありそう)
環境変化に応じて適切に探索ー利用のバランスを保って信念を更新
正答率も信念更新の精度の高さに伴って上昇
感情更新によって信念と行動の結果から動的に精度を調整
実際の観測を受けて精度を変化させるため柔軟な行動選択につながる
| Model | \(\gamma\) Value | Accuracy (Low Unc) | Accuracy (High Unc) | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Fixed | 0.1 | 56.5% | 51.6% | 学習の弱さ |
| Fixed | 0.9 | 85.6% | 63.0% | 固定では高精度 |
| Fixed | 1.0 | 49.1% | 48.3% | 柔軟性の弱さ |
| Dynamic | Variable | 86.7% | 63.1% | 環境への適応 |
シミュレーション結果から:
感情ネットワークが認知的な柔軟性を調整するモデルから,感情粒度と適応行動についての関係を考察
感情粒度の高さと適応行動の間の計算論的な説明を試みた
尤度など細かいモデル設定はこれから要検討
感情粒度 \(\neq\) 単なる繊細さ
感情粒度 \(=\) 認知パラメータ(\(\gamma\))の自律調整機能
低不確実性\(P(0.9, 0.1)\)
| model | fixed 0.1 | fixed 0.5 | fixed 0.9 | fixed 1.0 | dym 50 | dym 100 | dym 200 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| unstable | 56.5 | 72.4 | 85.6 | 49.1 | 86.4 | 86.7 | 66.3 |
| stable | 62.0 | 92.0 | 96.6 | 51.4 | 84.7 | 79.0 | 74.8 |
高不確実性\(P(0.6, 0.4)\)
| model | fixed 0.1 | fixed 0.5 | fixed 0.9 | fixed 1.0 | dym 50 | dym 100 | dym 200 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| unstable | 51.6 | 53.2 | 63.0 | 48.3 | 62.2 | 63.1 | 52.0 |
| stable | 50.7 | 51.3 | 62.0 | 50.4 | 59.4 | 53.7 | 52.1 |
(fixed:固定\(\gamma\)モデル, dym:変動\(\gamma\)モデル)